強引社長の不器用な溺愛
「もーいい。社長を軽んじる社員どもは置いて、俺は外出だ!篠井、あと任せたからな」


社長は自分のデスクに行くと鞄を乱暴に持ち上げる。
横に積まれた決済待ちの資料が何枚か舞った。
拾い上げ、私はその背中に声をかける。


「18時までには戻ってください。明日分のファクトリー発注の決済があります」


「おまえ、やっとけ」


「雑」


「今、なんつった」


私はつーんとそっぽを向くと、自分の業務に戻った。

私の本来の業務はこの小さなデザイン会社の総務だ。
秘書仕事はついでに過ぎない。

社長はどかどかと豪快な足音をたてて、オフィスを出て行った。

あのガキ大将、もう少し静かにできないもんか。
こんな古いオフィスビル、床が抜けるっつうの。
うるさいって他の会社から苦情が来ちゃうっつうの。

八束デザイン株式会社は、紙媒体の広告からウェブ広告まで広く手がける、小さな小さな会社。

社長である八束東弥(やつかはるや)が7年前、大学卒業後に起業。

最初は3人きりの会社だった。
今はパート、契約社員を合わせて25名を抱える会社に成長している。
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