強引社長の不器用な溺愛
社長は、もぐもぐと咀嚼し終えてから続きを言う。


「ホットケーキミックスってさ、ホケミって略すらしいぞ。すっげー違和感だと思わねえ?」


「あ、それ知ってます。ホケミってなんのこっちゃですよね。あとレシピサイトでHKMって略されてて、それもなんだかモヤモヤして……」


私が言うと社長がオーバーリアクションで、手をぶんぶん振りまくる。
なんだその仕草。あんたは近所のおばちゃんか。


「HKMって!なんだそれ、アイドルグループか!知らなかったら、何にも作れねーじゃん」


「いや、ホントですよ。私、最初ググりましたもん」


社長が笑い、私が笑った。

ああ、社長は普段通りに接しようとしてくれているんだ。私に気を使わせまいと。

きっとキスを無かったことにしたいのは、社長も一緒。
それなら、私たち利害一致ですね。

うん、私も精一杯忘れます。
張り切って脳内から追い出します。

私たち、今の関係が一番いいもんねぇ。


「一口食う?」


社長が言った。
いやいやいや、何をおっしゃるお兄さん。

私は怪訝な顔をし、遠慮の意志表示に首を振る。
今しがた、ふたりの距離感の考察を済ませた私に、わけわからん勧めはやめてくださいよ。


「食べませんよ」

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