強引社長の不器用な溺愛
いそいそとパソコンを落とすと、ドアが開いた。

社長がひとりでそこに立っていた。


「お疲れ様です。直帰じゃなかったんですか?」


思いもかけず社長登場で、私は悪戯を見つかったような顔をしてしまう。


「直帰なら早めに連絡するだろ?もう、おまえも帰ったかと思ってた」


社長は結構疲れているようで、首をパキッと鳴らしフロアに入ってくる。
一日中、トラブル対応で走り回っていたのだ。当たり前だろう。


「堂上さんは?」


「リカちゃんとこ行った。直帰」


リカちゃんというのは、堂上さんと長年お付き合いをしている信金勤務のお姉さんだ。


「仲良しですよね。そろそろご結婚の話なんか出てたりして」


帰り仕度をしながら、なんとなく会話するのは、夜のオフィスで二人きりというあの晩のような環境を誤魔化したいからだ。

社長は自分のデスクに鞄を置くと、頭を掻く。


「そん時は本人が報告するだろ」


あ、なんかわけ知り顔。
社長と堂上さんは、親友みたいな関係だし、案外ふたりの間ではそういう話もしてるのかな。

社長のデスクの前に私と堂上さんのデスクが向かい合わせになっているため、社長と私の距離は結構近い。
早く帰らなきゃ。


「それじゃあ、お先に失礼します」
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