強引社長の不器用な溺愛
「キスくらいで……慌てないでください……」


私の口からは、心中の大パニックに反して、余裕たっぷりの言葉が漏れた。

自分が何を言っているのかわからな……

……いや、わかる。

私は今、なけなしのプライドを総動員して、自分のやらかしたキス事件を遊びの範疇に収めようとしているのだ。

すげーな、私の自意識!
一瞬でよく判断したな!だけど、グッジョブ!

よっしゃあ、こうなったら演じてやるぞ。
大人の女はキスくらいじゃ動じない。

前回のキスも、たった今のキスも、大人の女プレゼンツの遊びだ!

私はにこっと微笑むと、間近にある社長の顔をさらに引き寄せようと右手を首に回した。


「こんなことに大きな意味はないんです」


唇同士が接近する。私は声を落とし、ささやいた。


「気持ちいいなら、してもいいと思いませんか?」


社長の瞳が本当に近くにある。
綺麗な二重の目。鼻だって高い。近くで見ると、本当にカッコいいな。
ふとそんなことを思った。見た目よりずっと柔らかな唇は、私をとろけさせてくれると知っている。

社長の表情が変わった。
困惑が掻き消え、瞳には凛と光が灯る。
スイッチが入ったのがわかる。


「条件は気持ちよくさせることか」


社長も低くささやく。
その声が聞いたことのないもので、ぞくっと身体が震えた。
期待している自分を感じる。
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