強引社長の不器用な溺愛
情けない。駄目なんだってば、こんなこと。
葛藤しつつ、社長にしがみつく私は矛盾の塊だ。

社長の指がとうとう私の胸の丘に到達した。
左胸を指でなぞられ、初めての感触に私は大きく背をのけぞらせた。
唇同士に隙間ができ、あえかな声が空気を震わせた。

すると、社長の手が止まった。
本当にぴたっと。


「社長……?」


私は社長の顔を見上げる。

社長はふうっと息を吐くと、真顔に戻った。
さっきまでの熱に浮かされたような表情はなく、スイッチがオフになったのがはっきりとわかった。


「楽しい気遣いをありがとう」


社長は言って、私の上から退く。
あの日のように逃げ出しはしない。胡坐座で頭を掻きながら、苦笑して見せる。


「俺が疲れてるからってサービス?よく知ってるヤツとのキスってのも、刺激的で楽しいな。さすが、モテる女だけあるよ。面白かった」


皮肉ではない。単純に感嘆の言葉として社長が言うから、私は身体を起こし、スカートの裾を整えた。


「私も楽しかったですよ」


自分自身の憎らしいほどの余裕を恨んだ。

何、かましてんだ、ワタシ!処女だろーが!

社長が立ち上がる前に、すっくと立ち、今度こそリュックサックを持つと、頭を下げた。


「それじゃあ、私はお先に上がらせていただきます。お疲れ様です」
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