強引社長の不器用な溺愛
「社長、決済書類お願いします」


「お、おう」


「明日はエコステーションの件で安野産業に直行です。忘れてないですよね」


「もちろん……なぁ、篠井」


特に用事もないくせに、声をかけてみる俺。


「5分いいか?打ち合わせ」


「明日でいーんじゃないですか?」


篠井がニコッと笑う。篠井は俺の仕事をほとんど把握している。急な案件はないと踏んで答えているのだ。


「いやー、楽しそうな話が聞こえたから妨害してみようかと」


俺が軽口を混ぜると、篠井がふふっと笑う。
こんな笑い方しないくせに。なに、この女。


「ダメですよ。退屈だからって、部下のプライベートを巻き込まないでください」


「社長命令って言っても?」


俺はニヤニヤ笑って引き下がらない。

普段の篠井なら、ムーッと顔を渋くして『手短にしてくださいよ』なんて応じるだろう。
しかし、今日は貼り付けたようなニコニコ笑顔で答えるのだ。


「お先に失礼します」


実際、打ち合わせすることなんてない。篠井が応じてきたら適当に後付けで仕事を作るだけ。

篠井はここ数日、完全に俺を避けている。
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