強引社長の不器用な溺愛
私が沙都子さんに頭を下げると、後ろから衿奈(えりな)ちゃんが声をかけてくる。
昨年入社の衿奈ちゃんはわが社の経理をひとりで取り仕切っている。

彼女が入るまでは私と副社長の堂上(どうじょう)さんという男性が経理をやっていた。
彼女が来てくれて大助かりだ。


「絹さーん、社長宛の請求書、出し忘れってないですかねぇ」


「うーん、無いと思いたい」


「でも、さっき入金無いって電話ありました。大井ロジカルから」


私と衿奈ちゃんは、不在を良いことに社長のデスクを漁り始める。

デスクの上にはあまり物は多くない。
しかし、足元や引き出しは書類や封書だらけだ。

衿奈ちゃんが文句を言う。


「社長って、適当が服を着て歩いてるみたいな人ですよね。私、会社選び失敗したかも」


うんうん、若人よ。正解かもしれない、その考察。


「あれで完全に何もしないならマシなんだけど、全部自分のペースで手ェ出しまくるからねー。で、すぐに新しい仕事とってくるでしょ?タチが悪いったら」


私もぶつぶつ日頃の文句を垂れ流す。
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