強引社長の不器用な溺愛







今年もあと二週間というその週の後半、オフィスに敬三さんがやってきた。

重松敬三、安野産業の常務にして、俺の友人。篠井絹の従兄。

身長は170センチ少々。肩幅ががっしりしているので、40代半ばの年齢にしては恰幅がよく見える。
顔立ちは穏やかを絵に描いたような男だけれど、頼りになるビジネスパートナーだ。

今日は来週の出張の件で打ち合わせがあるので、わざわざ顔を出してくれたのだけど、約束の時刻よりずいぶん早い到着だ。
そしてなぜか、オフィスのドアのところで俺を呼ぶ。


「こんちは、敬三さん。打ち合わせ、外でやりましょうか?」


声をかけ、腰を浮かすと、敬三さんの後ろから懐かしい顔が覗いている。


「生駒?」


俺は呟く。敬三さんの後ろから顔を出したのは、我が社の創業メンバーである生駒沙知絵だ。
お腹の抱っこ紐に赤ん坊、右手は2歳くらいの女の子と繋がっている。


「懐かしい顔が会社の前に突っ立ってるから声かけちゃったよ」


敬三さんが言う。彼は俺たちの会社のスタートから知っている。生駒が広告代理店に転職を考えたとき、紹介したのも敬三さんだ。


「八束くん、ごめんね、仕事中に」
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