強引社長の不器用な溺愛
生駒は遠慮がちに言う。
会うのは、上の子が生まれた時、堂上とお祝いを持って訪ねた以来だから2年半ぶりだ。

長かった髪はショートボブに変わっていて、元からの童顔も手伝い、生駒は出会った18歳の頃のように見えた。
赤ん坊と幼児を連れてるんだけどな。


「いや、来てくれて嬉しいよ。でも、連絡くれればよかったのに。堂上がさっき出かけたところだよ」


「そうなんだ。あ、八束くん、これお土産なの。皆さんで召し上がって」


遠慮がちに箱入りのマドレーヌを差し出す生駒。

彼女がいた頃は、同じ吉祥寺でも、もっと小さなオフィスだった。ここは知らない場所だ。落ち着かないだろう。
お茶なら外にでも誘おうか。

敬三さんには少し待っていてもらってもいい。
篠井は従妹だし、沙都子さんも敬三さんの紹介で入社している。あの二人あたりが相手をしてくれるだろう。
そもそも約束は1時間も後だ。


「社長」


ピリッと空気を裂くような声が背後から聞こえた。
顔だけ振り向くと篠井が立っている。すっごく無愛想な顔をしている。


「お客様でしたら、応接へ。立ち話は失礼です」


なるほど、俺がお客様に無礼を働いてるってわけね。
篠井は生駒が辞めた後に入社している。彼女を知らないのだ。
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