強引社長の不器用な溺愛
「生駒、こっちは篠井。うちの総務。篠井、彼女はこの会社の創業メンバーの生駒さん。あ、今は仙川さんだっけ?」

「仙川沙知絵です。ご挨拶が遅れましてすみません」


生駒が今の名を名乗り、頭を下げる。
篠井が少し目を見開いた。無愛想だった顔を一転させ、あの貼り付けた人工スマイルを生駒にも見せる。


「こちらこそ失礼いたしました。篠井と申します。どうぞ、こちらへ」


篠井は生駒一家を簡易応接へ連れて行ってしまう。

俺のことはほぼ無視。

あれー?篠井さーん、なんか機嫌悪くねっすかー?
俺、またなんかしちゃった系すかー?

篠井はサクサクとお茶とお菓子をパーテーションの向こうへ運び、俺に行くよう目で合図すると、2歳児も飲めるジュースを買いに出て行ってしまった。

狭いワンフロアのオフィスの隅にパーテーションで区切った簡易応接がある。
二人掛けのソファがひとつと、一人掛けがふたつ。小さなテーブルがひとつ。それで全部だ。

パーテーションから顔を覗かせると、二人掛けのソファに生駒と娘がいた。
赤ん坊は女の子のようだ。よく眠っている。抱っこ紐から、だらっと横にずれた顔が見え、俺は笑った。


「生駒に似てる」


「そう?」


彼女の前に座りながら、重ねて言う。


「うん、上のお嬢さんはご主人に似てるけど、赤ちゃんは生駒そっくりだよ」


生駒が照れたように微笑んだ。笑い方も、あの頃と何にも変わってないのに。
こいつはもう人妻で母なんだよな。
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