強引社長の不器用な溺愛
俺がでかい声で笑うと、娘さんにお菓子を剥いてあげていた生駒がぽつんと言う。


「八束くんと結婚してたら、私、もっと早く社長夫人になってたよ」


俺は一瞬どきりと固まった。生駒のことは好きだった。しかし、それは片想いにしたって淡いもので、本人には伝えていない。
すると、生駒が続けて言った。


「気づかなかったでしょ。私が八束くんのこと好きだったって」


突然の告白になんと答えたものか迷った。
いや、生駒は過去形で話しているじゃないか。俺が慌てる必要はない。


「マジで?すげー光栄」


「もう、そうやって茶化す。だから、言わなかったんだよ」


生駒が苦笑した。ささやくようなか細い笑い声も変わっていないのに。


「今は主人と子ども命ね。でも、せっかくだからお暇乞いのついでに言っちゃった」


「なに、そのサプライズ。いや、嬉しかったけどね。過去形でも」


なんだ、俺たちの気持ちって、一度は重なってたんだな。
俺、馬鹿だから気づかなかったよ。惜しいことしたって、少し思う。

でも、後悔は不思議とないのだから、時間は確かに良薬になるのだろう。

世間話をして、生駒を玄関まで送る。


「元気で」


「うん、八束くんも。堂上くんによろしく伝えて」


娘と手をつなぎ去っていく小さな背中を見つめた。

気をつけて。
新しい地でも幸せに。

……なんかこれって父の気分。

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