強引社長の不器用な溺愛
従兄弟同士の喧嘩をいつまでも傍観しているわけにもいかないので、俺は口を挟む。


「えーと、理由はわかりました」


「納得しちゃうんですか?」


篠井が今度は俺を責めるので、ため息ひとつで答える。


「仕事で家族を犠牲にするとか、今どき流行らないからさ。敬三さんほどの人がそこまで言うなら、よっぽどのことだ。俺も唯人くんとこ行ってほしい」


篠井が不満げに鼻を鳴らした。この真面目秘書は、仕事を最優先すべきだと思ってるだろうな。
でも、それって時と場合なんだよ。融通が利くなら、利かせた方がいいんだ。


「繋ぎだけつけてくれれば、あとは俺がうまくやるんで、敬三さんはクリスマス会に行ってくださいよ」


「ありがとう、東弥。……しかし、おまえだけじゃ心配で任せられない」


ズバッと俺の人格を否定する敬三さん。

なんだよ、それ。こっちが気ぃ遣ってんのに、その言いぐさはねーだろ。
俺が口をひん曲げて微妙な苦笑をしていると、敬三さんは重ねて言った。


「絹、そこでおまえに頼みがある。今回の出張に同行してほしいんだ。俺が帰った後、このソコツ者の八束東弥が大事な商談の現場で粗相をしないか見張っていてほしい」


「はぁ!?」


またしても、俺と篠井の声がかぶった。

篠井と出張?
しかも日程は一泊二日だぞ。一緒に地方に泊まって来いって言うのか?

< 98 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop