強引社長の不器用な溺愛
「嫌です!クリスマスイブなんですよ?私にだって予定くらいあります!」


篠井がいの一番に文句を言う。
そうか、出張はクリスマスに重なるんだ。毎年、イベント的に過ごしてこなかったから、頓着していなかったけれど、女子には大事な日だよな。

というか、クリスマスという日取りを抜きにしても、篠井と二人で旅行はまずいと思う。


「敬三さーん、俺ひとりでいいっすよ。さすがに俺ももう三十路なんでね。血が熱い若者と同じ心配はいらんと思うんですがねー」


粗相なんかしねーよ。一応、社長なんスけど、俺。


「東弥、悪いが今回は楽観できない。大沢キノコ農園側からは、安野産業と八束デザインで内定は出ているが、それは先方の社長と広報関係者の意見だ。副社長が大手広告代理店のクリエイターズフォレストと昵懇なんだ。少しでもこちらに隙や落ち度があれば、付け入られるぞ」


「たかが挨拶と打ち合わせで、そんな話にはならんでしょう」


「悪いが俺に従ってほしい」


俺はわずかに息を飲んだ。

敬三さんは見た目こそのんびりした温厚そうな会社員だが、中身は真逆だ。
仕事に関しては、ものすごく目が効き、勘が働く。
手回しも上手く、仕事も早い。この男ひとりに泣かされたライバルたちは多くいるだろう。
この年で大企業の常務というのは伊達じゃないのだ。

実際、何度も彼の忠告で窮地を救われている。
今回の出張を敬三さんが楽観視するな、気を抜くなと言うなら、それは正しい判断なのだろう。

とはいえ、そこで篠井と同行っていうのをすんなり飲めるはずもなく……。
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