蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
三条先生の言葉に首を傾げる。

「電車でなんて帰れないだろうし、タクシー乗り場まで遠いよ」
「病院に呼べばすむことですし」

「…外までどうやって歩くつもり?」
「・・・それは…あ!松葉杖でも借りればなんとか」
「・・・・」

雪愛の答えが気に入らないのか、不機嫌な顔をした三条先生。

「察しの悪い子だね」
「・・・へ?」

「内科は、昼からお休みだから、送るって言ってるんだよ」
「・・・へ。へ?!い、いいですよ!自分で帰りますから」

「強情な人だ。その足で、階段とか上がれるの?」
「・・・ぁ」

・・・やっと、三条先生の言わんとする事が分かった雪愛は、口をつぐんだ。でも。ハッとした。

「や、やっぱりいいですよ。自分で帰ります」
「・・・」

雪愛は、今、蘇芳先生と同棲中だ。…あのマンションに連れて帰ってもらわなければならない。

蘇芳先生との同棲は、バレたくないと咄嗟に思った。

「…四の五の言わない」
「ぅ・・・」

「誰がどう見たって一目瞭然。黙って送られろ」
「・・・・」

・・・結局根負けしたのは、雪愛だった。

…でも、あのマンションにはどうしても帰れない。

苦肉の策として、雪愛はアパートに送ってもらった。後で、マンションにタクシーで帰ればいいと思ったからだ。
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