蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「ごめんなさい、大丈夫」

涙を拭い、微笑んで見せた雪愛。それを見た蘇芳先生は、少し安心してまた、雪愛を抱きしめた。

「…俺が、一番に駆け付けてやりたかった」
「…仕方ないですよ。蘇芳先生は、オペに入ってたんですから」

・・・そうなのだ。蘇芳先生は、オペの為手術室に入っていた。二時間後。オペ室から詰所にカルテの確認に来た蘇芳先生は、その時初めて知った。雪愛が、階段から落ち、ケガをした事を。

蘇芳先生は、その場にいた看護師に、雪愛のことを聞いた。

『捻挫みたいですけど…それより、三条先生、カッコよかったな~。もう、お姫様を助けた王子様みたいで』

…前々から二人の事は噂になっていた。…その噂は尾ひれがついて行き、今ではいつ結婚するのかという噂に発展していて。この事をきっかけに、結婚まで秒読み段階だと言われる始末。

この事を、三条先生も知っている。…実は、三条院長もこの事は、耳に挟んでいた。

・・・この事は、やっぱり、雪愛だけが知らない。…当然と言えば、当然なのだが。仕事には行けなくなったし、雪愛の前では、スタッフの誰もが口にする事はなかったから。


「…雪愛」
「…なんですか?」

「…結婚しようか?」
「…は?…へ?・・・え?!」

突然のプロポーズに、雪愛は目をパチクリさせた。嬉しい言葉なのに、突然すぎて受け入れられない。頭では結婚の意味が分かっているが、現実味がない。

…この噂が独り歩きして、噂が本当になってしまう前に、蘇芳先生は、確かなものが欲しかった。雪愛を、誰にも取られたくないと心底思って。

「俺は、本気だよ」
「・・・」

「雪愛はまだ、二十歳だ。結婚なんて、考えてもいなかっただろうな」

そう言った蘇芳先生は苦笑した。
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