蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「・・・何をそんなに焦っているんですか?」

雪愛は、蘇芳先生に問いかけた。

「…そうだな、しいて言えば、三条先生に雪愛を取られたくないから」
「・・・」

蘇芳先生は知らない。三条先生が、雪愛に酷な条件を出したことを。

「何で、そんな事を思うんですか?」
「…雪愛の隣には、いつも、いつの間にか、三条先生がいるから」

…確かに、事あるごとに、三条先生が隣にいる。何かと絡んでいる。

「蘇芳先生は、その、私と早く結婚したいですか?」
「出来るならいつでもいいと思ってる。でも、雪愛の気持ちを最優先して決めるよ。雪愛が乗り気じゃないのに、無理やり結婚しようなんて思ってない。雪愛が、俺と結婚したいと思ってくれた時に、しようと思ってる」

・・・蘇芳先生は何時もそうだ。

どんな時も、雪愛の事を一番に考えてくれる。こんなに優しい蘇芳先生が、雪愛は、本当に大好きだ。


・・・でも。


三条先生の言葉を思い出す。

『…蘇芳先生が、ここから追い出されても?』

…自分のせいで、蘇芳先生の立場が悪くなるのだけは嫌だった。蘇芳先生の腕を信頼する患者が、後を絶たない。病気を治してもらおうと、三条総合病院にやってくる。

信頼されて、こんなに腕のいい外科医の蘇芳先生は、この病院に必要だと思う。

・・・それなら、自分が取るべき行動は、…分かりきった事だった。

…分かっているのに、分かりたくない。・・・こんなにも、蘇芳先生の事が好きだ。好きで、好きで、愛おしくて。一生蘇芳先生の傍にいたいと思う。
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