蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…蘇芳先生」
「・・・ん?」

「蘇芳先生が大好きで」
「うん、俺も」

「蘇芳先生が、愛おしくて」
「…同じだ」

「とっても愛してるのに・・・」
「…雪愛?」

…どうして、誰かに邪魔をされなければならないのか?どうして、そっとしておいてくれないのか?ただ穏やかに、蘇芳先生に寄り添っていたいだけなのに。

…また、雪愛は泣いていた。そんな雪愛の両頬を包み込んだ蘇芳先生は親指の腹で、涙を拭う。

「…今は、そう思ってくれるだけで十分だよ。…言っただろ?雪愛が、俺と結婚したいと思ってくれた時でいいって」

優しい声色で蘇芳先生が言う。雪愛は、たまらなくなって、蘇芳先生の胸に顔を埋めた。

蘇芳先生は、雪愛の背中を優しく撫で続けた。

・・・しばらくして泣き止んだ雪愛を見て蘇芳先生が言った。

「マンションに帰ろう・・・引っ越しは、また少し延びそうだな。その足じゃ、無理だろうから」

その言葉に、雪愛は小さく頷いて見せた。

…その引っ越しは、もうないんだと思うと、胸が張り裂けそうに苦しかった。それでも雪愛は、微笑みを浮かべて見せた。

…足が治るまでは、蘇芳先生の傍にいさせてください。

雪愛は、心の中で呟いていた。
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