蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…別れを決めた雪愛は、話が終わると三条先生の車を降りた。そして、ゆっくりと歩き出す。

…こんなに辛い思いをするなら、蘇芳先生を好きにならなければよかった。

好きにならなければ、今まで通り、同じような変わらない毎日を過ごしていたのに。

そう思ったのに…雪愛の頭には、蘇芳先生と過ごした日々が思い出され、思い出しただけで、心が温かくなるのを感じた。

…後から後から流れる涙を止めることもせず、雪愛は歩き続けた。

…そしていつの間にか、家に着いていた。…それは蘇芳先生のマンションではなく、雪愛のアパートだった。

二階に上がった雪愛は、目を見開いた。

…ずっと、ずっと、イタズラする犯人が許せなかった。会ったら、怒ろうと思ってた。

「…薫子先生」

雪愛の言葉に、薫子先生の体がビクッと震え、雪愛の方に振り返る。そして、薫子先生は、驚いた。

…泣いて、泣いて、泣いて。崩れてしまった化粧で、グチャグチャの顔の雪愛。傷ついて、捨てられた子犬のような顔をしていた。

「…雪愛、ちゃん」
「…もう、やめて下さい…もう、私は蘇芳先生とは無関係になっ「…薫子、お前」

泣きながら言う雪愛の声に、誰かの声が重なった。

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