蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
雪愛の横を通り過ぎ、薫子の頬を叩いた。

「…秀明」
「なんで、こんな事!」

…頬を叩いたのは、蘇芳先生だった。蘇芳先生は怒りに満ちた目で、薫子先生が見下ろした。

「…秀明、私「…待ってください」

怯える薫子を守るように、誰かが前に立ちはだかる。蘇芳先生はその人を凝視する。

「…西川先生」
「…気づくのが遅くなってすみません。…ずっと、薫子先生の心のケアをしていたつもりだったのですが…島崎さん、すまない。もう二度と、薫子先生を君に近づけないから」

そう言った西川先生は、俯いてる薫子先生を連れ、その場を去っていった。

…それを見届けた蘇芳先生は、静かに雪愛の前に立つ。そして雪愛の顔を両手で包んだ。

「…ずっと、一人で我慢してたのか、薫子先生の事」
「…大した事じゃなかったから」

視線を泳がせそう言った雪愛。

「…一体どれだけ泣いたんだ?こんなに目を腫らして」
「…」

…いつもと変わらない蘇芳先生に、雪愛の心は締め付けられた。

それを知らない蘇芳先生は、雪愛を抱き寄せた。…このまま時間が止まればいいのに…雪愛は思った。でも、時間は止まってはくれない。

「…雪愛、帰ろう」

その言葉に、雪愛は目をギュッと瞑って、蘇芳先生の体を押しのけた。
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