蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…別れを伝えた次の日も、二人は顔を合わせなければならなかった。

今週末まで、外科の外来は、蘇芳先生が診察し、雪愛が看護師としてサポートに入る。

…別れた二人には残酷という言葉以外当てはまる言葉はない。

それでも、いつもと変わらず、患者に接しなければならい。仕事に私情は挟めなかった。

…その日の夕方、診察を終えた診察室で、雪愛は蘇芳先生に言った。

「…蘇芳先生」
「…なんだ?」

「…荷物を」

雪愛の言葉に、振り返った蘇芳先生は、雪愛を黙って見上げた。

「…今から、蘇芳先生のお宅に、荷物を取りに行かせてください。今日中に全て持ち帰ります。鍵も、テーブルの上に「…俺ももう終わる。一緒に行く」

「…でも」
「いいから」

そう言うと、雪愛の頭を優しくポンポンと叩いた蘇芳先生は、仕事を終わらせ立ち上がった。

「…駐車場においで」
「…はい」

蘇芳先生の言葉に、小さく頷いた雪愛は、更衣室に向かい帰る支度をした。

…そして、駐車場に行くと、ドアの前、蘇芳先生の車が止まっていて、雪愛はそれに乗り込んだ。

…その光景を…三条先生が見つけた。…でも、何を言うでもなく、見て見ぬ振りをして、廊下を歩いていった。
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