蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…後髪引かれる思いで実家を出て、病院に向かった雪愛は、いつものように、笑顔で業務にあたった。

…雪愛の笑顔は、本当に、みんなを癒す。患者によく言われるのが、

『雪愛ちゃんの笑顔は特効薬だ』

と言ってもらえること。雪愛にとって、これほど嬉しい褒め言葉はなかった。

業務に集中している間は、母の事も…蘇芳先生の事も忘れられた。

…1日の業務が終わり、今日も三条先生から誘いを受けたが、私用だからと断った。

着替えを済ませ、外に出た雪愛を、一人の女性が待っていた。

「…薫子、先生」
「…ちょっと、いい?」

…切羽詰まったような薫子先生の声に、思わず雪愛は構えてしまった。

何をされるかわからないのだ。そうなるのも無理はない。

そんな雪愛を見て、薫子先生は哀しげに笑った。

「…なんですか?」

震えた声で雪愛は薫子先生に問いかけた。

「…今まで悪かったわ」
「…え」

薫子先生の突然の謝罪に、雪愛はキョトンとした。
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