蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…こんなところで聞きたい事ってなに?」

屋上に着いて直ぐ、三条先生が先に口を開いた。

雪愛は三条先生から視線を外したまま、問いかけた。

「…蘇芳先生の事です」
「…人と話をする時は、ちゃんと目を見て話せって言われなかった?」

その言葉に、雪愛は渋々三条先生を見た。

「…で?」
「…蘇芳先生は、勉強の為に出張だって聞いてたんですけど」

「…そうだね、そんな通達だったよ」

「…それ、嘘ですよね?」
「…」

『嘘』その言葉に、三条先生は口を噤んだ。

「…本当は、院長が、蘇芳先生をこの病院から追い出した…違いますか?」

…。

「…そうだとしたら?」
「…開き直るんですか⁈」

悪びれない態度の三条先生に、雪愛は怒りを露わにした。

…院長の行動。それはもちろん単独だった。三条先生はそんな事頼んじゃいない。蘇芳先生をこの病院に残す約束で、雪愛を手に入れたのだ。追い出すような事はしたくなかった。

『啓介、お前はどこまでも甘いな。こうでもしないと、欲しい物は手に入らん』

院長に言われ、なす術がなかった。

…今はまだ、院長の方が地位は上。いくら息子とは言え、逆らえるはずがなかった。
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