蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…院長の言葉は絶対だ。誰も逆らえない」

…雪愛にとって、そんな事はどうでもいい。そんな事より、三条先生の裏切りが許せなかった。

蘇芳先生がこの病院に残るなら、と、無理やり別れを決めたのに。

これでは、別れた意味がない。

雪愛は怒りのままに、三条先生の胸を叩いた。

「酷い!三条先生酷いです!…どんな思いで、こういう選択をしたと思ってるんですか⁈」

泣き叫びながら、何度も何度も三条先生の胸を叩いた。

…でも、三条先生は、それを止める事はなかった。されるがまま。

…いつしか雪愛は疲れ果て、その場にしゃがみ込んだ。

しゃがみ込んで、泣き続ける雪愛に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ三条先生は、そのまま雪愛を抱き締めた。

…疲れ果てている雪愛は、それに抵抗することなく、泣き続ける。

「…約束を破った俺は悪い。でも、君を手に入れた以上、話は進める。…年末、お互いの両親の顔合わせをするから」

…三条先生の残酷な言葉に、現実味がない。雪愛の目に映る光景も、三条先生の言葉も、いまの雪愛には、もうどうでもよかった。

…今はただ、蘇芳先生に会いたくて…

…蘇芳先生が恋しくて…

泣き続ける他なかった…
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