蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…雪愛の言葉に、今まで穏やかだった三条先生の顔が険しくなった。

「…雪愛ちゃん、それは出来ない」
「どうしてですか?三条先生は、私との約束を守ってくれなかった。だから、私が三条先生との約束を果たす必要はないはずです。違いますか?」

…静かな店内という事もあり、雪愛は終始静かな声で三条先生に言う。

…三条先生もまた、声は冷静だった。

「…今週末、両家の顔合わせの予定を入れてる」

三条先生の言葉に、雪愛は目を見開いた。

「…そんな…母は、そんな事知りません」
「いや、知ってる。…この間、君のお母さんに会ってきたから」

「…」
「…わかりましたと、言ってくれてるよ」
雪愛は、口に手を当てた。何故、母は、会う事を、了承してしまったのか?

「…もう、君の気持ちの為に、止められる話じゃなくなってる。週末、セントラルホテルに、お母さんと来て…あぁ、時間は10時だから」

…三条先生は淡々と話を続けた。そうでもしなければ、雪愛の言葉を受け入れてしまうから。

この結婚が、お互いの為にならない事などわかりきっている。

だが、三条先生ももうあとには引けなくなっていた。

もちろん雪愛を愛している。

でも今は、愛よりも意地が勝っていた。
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