蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…結婚は、好きな人とするものです」

院長が真っ直ぐに見つめ、母が言う。

…だが、院長も黙ってはいない。

「…果たしてそうでしょうか?その結婚に愛はなくとも、幸せになることだってある。啓介は、雪愛さんを、路頭に迷わすことはしないでしょう」

「…結婚に、愛は必要です。お金なんて、必要最低限あればいい」

母と院長の話は平行線を辿る。雪愛は、母の額に汗が滲んでいることに気づき、言葉を発した。

「…お母さん、もういいよ」
「でも…」

「…院長…三条先生、この話し、無かったものと諦めてください。私は三条先生と結婚するつもりはありません。失礼します…⁈「…そんなの認めない」

母を立たせ、行こうとする雪愛を三条先生が止めた。雪愛は苛立ち、三条先生を睨んだ。

「…離してください、母の具合が良くありません。これ以上ここに居ても、話は終わらない「…ダメだ」

「三条先生いい加減「…離せ、三条」

雪愛の腕を掴む三条先生の手を誰かが払いのけた。

見上げた雪愛は、驚きを隠せず、ただただその人を見上げた。

「…遅くなって悪かった。…迎えに来たよ」

そう言って微笑んだのは。
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