蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…蘇芳、先生」

その名前を発した途端、緊張の糸が切れてしまったように、ポロポロと涙が流れ落ちる。

そんな雪愛の涙を優しく拭った蘇芳先生は、三条親子に振り返る。

「雪愛は返してもらいます」
「…そんな事させない」

落ち着いた蘇芳先生の声に対し、三条先生の声は明らかに動揺している。

「三条先生、貴方は尚、雪愛を苦しめるつもりですか?」

蘇芳先生の言葉に、三条先生は押し黙った。

「…蘇芳君、恩を仇で返すつもりかね?」

院長が蘇芳先生を睨みながら放った一言に、蘇芳先生は冷笑した。

「…三条総合病院に居る間に、散々恩は返したつもりですが?お釣りが来ても良いくらいにね」

「…蘇芳」

蘇芳先生の言葉は最もだった。蘇芳先生の外科は、満員御礼とでも言うべきか。

三条総合病院への利益は膨大だ。その事を知ってる院長も、もう何も言い返せなかった。

「…雪愛、行こう。…お母さんの体調、相当悪いみたいだ」

蘇芳先生の言葉に、雪愛は頷くと、母を支えて歩き出した。

蘇芳先生の車に乗り込むと、車が走り出す。

「…雪愛、このままT大学付属病院に行くぞ」
「…何でそこなんですか?」

都内でも有名な大学病院だ。何故そこなのか雪愛にはわからない。
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