蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…お母さん、頑張ったよ」

その言葉で、成功した事がわかり、力が抜けた雪愛は、その場にしゃがみ込んだ。

蘇芳先生は、雪愛の背中を優しく撫でた。

「…蘇芳先生、ありがとう…ありがとうございました」

「…まだ、予断は許さない状態だが、意識が戻ったら、とりあえずは一安心だから」

「…これから、診療方針やら、看護師に指示をしなければならないから、傍にはいられないけど…少しここで待って」

近くにあったベンチに、雪愛を座らせた蘇芳先生は、どこかに消えていき、間もなくしてまた、帰ってきた。

「…蘇芳先生?」
「…これ。…ここで待ってて欲しいんだけど」

そう言って、雪愛の手に置いたのは、…雪愛が返した蘇芳先生のマンションの鍵。

「…でも」
「…お母さんはこのままICUで管理になるから、面会時間以外は中には入れない。一人でいるより、誰かが傍にいた方がいいだろ?」

「…」

「…俺も、雪愛が傍にいた方が、いいから」

そう言ってはにかむように微笑んだ蘇芳先生を見て、雪愛も少し笑みを浮かべた。

「…待ってます」

そう言うと、貰った鍵を握りしめた。
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