蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「あ、蘇芳先生お腹空きませんか?勝手にキッチンお借りして申し訳ないと思ったんですけど」

「…申し訳ないなんて、思わなくていい。雪愛以外あのキッチンは使ったことないんだから…」

そう言って苦笑する蘇芳先生に、雪愛は笑った。

「…ご飯食べますか?」
「あぁ、いただくよ。…久しぶりだな、雪愛の手料理」

…二人でテーブルを囲んで食事をとる。

…よくよく考えてみたら、このテーブルで二人で食事をするのは初めてだ。

「…どうですか?」
「…あぁ、美味い。…雪愛の手料理は相変わらずだ」

その取り留めのない会話が、初めてじゃないような錯覚を覚える。

…二人での食事は、初めてじゃないからか。

…楽しい食事も終わり、片付けを済ませると、リビングに足を進めた雪愛は、ふと前のことを思い出した。

「…雪愛、おいで」
「…蘇芳先生、私、そろそろ帰ります」

帰る気などないのに、そんな事を言ってみる。

蘇芳先生は驚いた顔をして、ソファーから立ち上がると、雪愛の元に来て、ギュッと抱き締めた。

「…帰さない」
「…でも」

「…もう、雪愛のいない毎日なんて考えられない」
「…私も、です…蘇芳先生は、やっぱり可愛い」

雪愛の言葉に蘇芳先生は複雑な顔をする。

蘇芳先生が甘えるのは、雪愛だけだ。それが嬉しいし、可愛いと思う。

「…男に可愛いは、禁句だろ?」
「…私の前の蘇芳先生は可愛いです」

譲らない雪愛に観念したように、蘇芳先生は困ったように笑った。
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