蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「おはようございます。診察してもよろしいですか?」

蘇芳先生の言葉に、母は小さく頷く。

「…雪愛、そろそろ行った方がいいんじゃない?」

「…え?あ、本当。…じゃあ、行くね。また来るから…蘇芳先生、母をお願いします」

「…あぁ」

雪愛は蘇芳先生に頭を下げると、母の手を優しく握りしめ、ICUを出て行った。

…蘇芳先生は、それを確認すると、母の診察を始めた。

「…初めまして。と言うべきですね。私、雪愛の母です」
「…初めまして。蘇芳秀明と言います。…経過は良好です。でも、これからは、病気を治す事に集中して下さい」

「…えぇ、そうするわ。…蘇芳先生、貴方に娘を任せられるなら」

「…もちろんです。…雪愛さんには、辛く寂しい想いをさせてしまいました…申し訳ありません」

「…いいの。色々と事情もあるんだし…」

「…これからは、何があっても、もう雪愛さんの傍を離れません。必ず守ります」

「…貴方自身も、離れたくないのかしら?」

なんておどけて見せると、蘇芳先生は、苦笑した。

「…お察しの通りです。離れていられたのが不思議なくらいです。雪愛さんは、なくてはならない存在です」

蘇芳先生の言葉に、母は、安心したように微笑んだ。
< 148 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop