蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
13.先生、迷うお時間です
「…とりあえず行こう。業者が待ってるから」
「…蘇芳先生」

不安げな顔で、蘇芳先生を見上げる雪愛。

「…ちゃんと説明するとなると長くなりそうだから、とりあえず行こう、な」
「…はい」

…その後の2人はほぼ無言。せっかく今日から一緒に居られるというのに、とんでもない置き土産によって、危うくなっている。

…業者が仕事を終わらせ帰ってしまうと、広いマンションに2人きり。

「…雪愛、そこに座って」
「…はい」

蘇芳先生に促されるまま、ソファーに腰を下ろすと、蘇芳先生を見つめた。


「…とりあえず、三条先生が言うように、今回の開業に当たって、それなりの代償は負うよ」

蘇芳先生の言葉に黙って耳を傾ける。

「…院長の娘さんとの縁談話も持ち上がった。…でもな、俺には雪愛、君がいる。君以外の人と結婚なんて考えたこともない。だから、お断りした」

雪愛は安堵の溜息をついた。

「…それじゃあ、代償って一体」
「…うん、そこなんだよな、大事なのは。雪愛が俺と一緒に居てくれるというなら、その事に納得してじゃないといけない」

「…教えてください」
「…病院一つ、小さいとはいえ、莫大なお金がかかる事はわかるよな?そのお金を一時的にお借りするんだ。全額返すという約束で、院長に借りたんだ。院長の温情で無利子にはしてくれたけどな」

「…私も一緒に返します」

蘇芳先生の話に、雪愛は直ぐにそう言った
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