蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
蘇芳先生の言葉に、雪愛は微笑み頷いた。

「…私を、蘇芳先生の奥さんにしてください」
「ああ」

「…私を、先生の病院で働かせてください」
「勿論、こちらこそ宜しく」

2人は夫婦になる事を誓い、良きパートナーとして、いいスタートを切るはずだった。

…それなのに、数日後。

雪愛は、一つの壁にぶち当たる。

今後の人生を左右する、大きな壁。…蘇芳先生に伝えなければならないが、なかなか伝えられなくて。

ただ、時間ばかりが過ぎていく。

そんな中、雪愛の母が、大学病院を退院した。調子もよく、一緒に住む事願った雪愛だったが、これから新婚生活を始めようとしてる家になど、住みたくない。見てるこっちが恥ずかしくなるから、という理由で断られた。

…それは、母なりの優しさだった。新婚生活なのに、同居なんて大変な思いをしてほしくないと切に願ったから。

「…雪愛」
「・・・なあに?」

実家で、お茶を入れてる雪愛に声をかけた母。

「貴女、最近何か悩み事でもあるの?」
「…何で?」

「幸せそうなのに、時々、上の空な時があるから」
「…お母さんの気のせいよ」

そう言った雪愛だが、母の言葉は当たっていて、どこまでごまかせるのか、ヒヤヒヤしていた。

「そうなの?それならいいけど。雪愛、お母さんの事は気にしなくていいから、雪愛は蘇芳先生との生活の事だけを考えるのよ」

「・・・うん」

そう言って頷いた雪愛。その顔はどこか浮かない顔。
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