蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
複雑な思いを抱えたまま、仕事をこなし、昼休み、1人で屋上で昼食をとっていた。

「…蘇芳先生も、新しい事を始める大事な時なのに」

そんな事を呟いてしまう。

・・・そこへ、誰かが、屋上に来た。

「…三条先生」
「・・・・」

…昼休み、雪愛がここでよく昼食を食べてるのは知っていたが、まさか、今日、ここで会うと思っていなかった三条先生は少し驚いた。

雪愛は、丁度お弁当を食べ終わり、片付けをすると、三条先生の近くまで歩み寄った。

「三条先生」
「・・・なに?」

「私を混乱させるために、あんなことを言ったんですよね?」
「…そうだよ。簡単にわかる事なのにな。・・・最後の悪あがきだよ」
「・・・・」

「…雪愛ちゃん、なんだか、顔色がすぐれないな」
「…そんな事ありません」

「お弁当、あまり食べてなかったみたいだったけど?」
「…食べたくない時もありますよ」

「…何か悩み事?」
「…そんな事ありません」

「遭っても、そんな事、俺には相談できないよな」
「当たり前です」

即答する雪愛に、三条先生は苦笑した。

「・・・でもなぁ。今、雪愛ちゃんが悩んでいることが、俺には何となくわかるんだよな」
「・・・」

「その悩み事は、すぐにでも解決すべきことなんだと思う。ちゃんと言わなきゃならない人に、相談すべきことだよ」

「…三条先生、調べましたね?」
「…人聞きの悪いこと言わないでくれよ。たまたま外来のカルテを見てしまっただけだ。とにかく、早く、相談しろよ」

「…三条先生に言われなくても、分かってます」

雪愛のつんとした態度に、困ったように笑った三条先生は、屋上を出ていった。
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