蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
溜息をついた雪愛は、振り返りざま、まためまいを覚えフラついた。

「危ない!」
「…すみません」

誰かが倒れそうになった雪愛を、助けるように支えてくれた。

「顔色が優れないな…」
「…すみません、大丈夫です」

なんとかそう言った雪愛だったが、本当は大丈夫なんかじゃなく、支えてもらっているから、立っていられただけだ。

「…私は医師です」
「…え?」

少し見上げると、白髪交じりの紳士風な男性だった。

「…とりあえず、あそこのベンチへ」

医師と名乗った人に促されるまま、ベンチに座った雪愛は、落ち着かせるように、深呼吸を繰り返した。

…そのうち、体調も良くなっていき、ずっと、横に居てくれたその人に、再び礼を言う。

「…本当にありがとうございました。おかげで、だいぶ良くなりました」

「…あの、差しでかましい事かもしれませんが、何か病気をお持ちですか?」
「…いいえ、病気ではないんですけど」

もう二度と会う事もないだろうと、雪愛は今の悩みを打ち明けた。

「…そうでしたか。相手の方は?」

その言葉に雪愛は首を振った。
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