蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「その方が信じられないんですか?」
「いいえ、信じられないなんてそんな」

「…でも、話せないんでしょう?」
「…彼は今、大事な岐路に立ってるんです。そんな時にこんな…」

泣いてしまいそうな雪愛に、紳士は優しく微笑んだ。

「大事な岐路に立ってるからこそ、話すべきなのでは?」
「…え?」

「彼が貴女にとって、大事な人なら、彼だって、彼にとって貴女は大事な人のはずだ。だから、話さなくては。一人で解決する話ではないでしょう」

「…そうですね。そうですよね。…今日、彼に全て打ち明けます。」

雪愛の言葉に、紳士は頷いた。

最後にまた礼を言うと、雪愛は帰宅した。

疲れて帰ってくる蘇芳先生の為に、ご飯の用意をしていると、玄関のドアが開く音がして、蘇芳先生を出迎えに行った。

「…おかえりなさい」
「ただい…」

言い終わらないうちに、蘇芳先生は驚きの眼差しで雪愛を見た。

「どうかしました?」
「…風邪ひいたのか?朝はマスクなんて」

蘇芳先生の言葉に、雪愛はハッとした。
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