蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
前々から心配性の蘇芳先生だが、臨月に入ると、それがより一層激しくなった気がすると、雪愛はちょっと困っていた。

…だが、蘇芳先生の心配は、見事的中してしまう。

開院して3日目。蘇芳先生は診察中、由紀は患者の血液採取をしている。雪愛は、次の患者の点滴の準備をしている時だった。

突然の腹痛と共に、破水してしまったのだ。ここは、外科専門医院だ。出産に必要なものはほぼ無い上に、外科医の蘇芳先生では、知識も少ない。

直ちに、T大付属病院に向かい、産科で入院となった。破水があったこともあり、陣痛も直ぐに始まるものと思われたが、なかなか始まらない。


いざ始まっても微弱陣痛、しかも、エコーで確認すると、赤ちゃんは逆子と判明した。

「帝王切開が妥当ですね」

担当医である、坂本先生の判断で、急遽、帝王切開になってしまった。今日は非番だった蘇芳先生の母も駆けつけたのに、自然分娩が出来ないと、雪愛は落胆した。

「雪愛さん、赤ちゃんとお母さんの命が最優先よ。2人が元気なら、私はそれだけで幸せよ」

お義母さんの言葉に、雪愛は涙を流し微笑んだ。
< 171 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop