蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…坂本先生の話をしたのは、その日が最初で最後。お互い、その話には触れなかった。

でも、雪愛は、わだかまりの残った2人をなんとか元に戻したいと思っていた。

…問いただした時の坂本先生の反応もきになる。蘇芳先生より、坂本先生の論文の方が良かったという点も更に気になる。

出すぎた事だとわかっていても、昔の坂本先生の話をする蘇芳先生の顔は、とても穏やかで、本当に信頼し合った仲だとわかったから。

…一ヶ月健診の日。雪愛は、行動を起こした。

「…産後の回復も良いみたいですね。…でも、産前からの貧血はまだ治りきっていないようなので、もうしばらく鉄剤は飲んで下さい。一週間後に結果が良いようでしたら、処方はストップしますから」

「わかりました」

「…愛ちゃんも、元気に育っているようですね。…お母さんにそっくりだ。大きくなったら、蘇芳さんみたいに、可愛い子になにますね」

そう言ってニッコリ笑う坂本先生に、雪愛も笑顔で返した。

「それではまた、一週間後」
「はい、…あの、坂本先生」

カルテを記入していた坂本先生が、雪愛を見る。

「…蘇芳先生と、坂本先生の話を聞きました」

雪愛の言葉に、目を見開く坂本先生。
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