蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…すみません」
「…秀明さん、違うの、坂本先生は」
「…蘇芳さん!」

事の次第を説明しようとした雪愛だったが、坂本先生が咄嗟にそれを止めた。

「坂本先生」
「…蘇芳先生、本当にすみませんでした。蘇芳さんは、…貴方の奥さんは何も悪くない。私が引き止めただけです」

そう言って頭を下げた坂本先生は、ファミレスを出て行った。

「…雪愛、帰るぞ」
「…秀明さん、聞いて」

「…今は何も聞きたくない」
「…秀明さん」

今まで、こんなに冷たい態度を取る蘇芳先生を見るのは初めてだった。雪愛は、ちゃんと話をしたいのに、蘇芳先生は、聞くことすら拒んでしまった。

…車の中、二人は一言も交わさなかった。…いや、お互い、交わすことが出来なかった。

車を降り、ベビーカーを降ろすと、蘇芳先生はまた、大学病院に行ってしまった。

…今日は木曜、蘇芳医院の診察は午前だけで、午後からは、大学病院で、手術の為の準備が待っていた。

…そよ夜、蘇芳先生は遅くまで帰ってこなかった。…雪愛は帰ってくるのを待っていたが、夜中も2時間おきに起こされる為、クタクタで、愛を寝かせると、いつも眠るベッドで、布団も被らず、眠ってしまっていた。
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