蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
ただでさえ、二人で仲良くいることに嫉妬した蘇芳先生にとって、いくらフリとはいえ、婚約者をするなんて、許されることじゃなかった。

…まだ坂本先生と仲が良かった頃、一度だけ、坂本先生の両親に会った事がある。厳格な父と教育熱心な母、坂本先生が雪愛を紹介すれば、必ず信じるだろう。

雪愛は自分の大事な妻であり、愛にとって必要不可欠な母だ。

そんな嘘で、二人を失う羽目になるなんてまっぴら御免だ。

だから、蘇芳先生は絶対に頷けなかった。

「…やっぱりダメですか?」
「…ダメ」

「…分かりました。と言いたいところですが、明日は行きます」
「…雪愛⁈」

驚く蘇芳先生に、雪愛は真剣な表情で言った。

「…困ってる人を、見捨てるなんて出来ません」
「雪愛、お前は、坂本先生の両親の事をよく知らないから」

「知りませんよ。会ったことないんですから…でも、あんなに切羽詰まった坂本先生を放っておくことはできません!」

…雪愛はいつもそうだ。困ってる人を放っておくことができない。何事においても。

「…勝手にしろ」
「…」

…結局、話は解決しないまま、話は終わってしまった。
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