蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…甲高い声で怒る雪愛。蘇芳先生は、その声が少し苦手なのだ。高い声が耳に響く。

「黙れ、雪愛」
「…⁈」

突然下の名前を呼ばれ、驚いた雪愛は、その視線を蘇芳先生に向けた。

「…ウソ泣きしても無駄だぞ、奏太」
「…」

蘇芳先生の言葉に、ピタリと泣き止んだ奏太君。その事にこれまた驚いた雪愛は、今度は奏太君に視線を落とした。

「…甘えるな奏太。来週から入院して、俺の手術を受けるんだろ?」

蘇芳先生の言葉に頷いた奏太君。

「…早く元気になって、お母さんと沢山外で遊ぶんだろ?」

「…うん、早く元気になって、お母さんと遊びたい」

「…じゃあ、俺の言う事をしっかり聞け。無理をしてると手術日は延びる一方だ。今後は走り回らず、おとなしくする事、苦くても、しっかり薬を飲む事…いいな?」

蘇芳先生の言葉に、奏太君は素直に頷いた。

診察を終えた奏太君は雪愛に可愛らしい笑みを浮かべ、手を振ると帰って行った。

…恐るべし、蘇芳秀明。

雪愛は思った。ウソ泣きに気づいていたなんて。
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