蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…あの、離してくれますか?」
「…嫌だと言ったら?」

真顔で言われ、雪愛は目を見開いたが…

「…痴漢だって叫びます」

と、これまた、真顔で言い返す雪愛に、負けたのは蘇芳先生で。

でも、可笑しくなったのか、蘇芳先生は、肩を震わせて笑い出した。

「もぅ!笑い事じゃありません!」

相変わらず顔が赤い雪愛。

…そうなのだ。いくら真顔でも、これだけ顔が赤ければ何の威力もない。

…むしろ、可愛くて仕方がない。

「ったくお前苛めるの、癖になりそうだ」
「…真顔で言われると、怖いんですけど」

対照的な2人の顔に、通りすがりの人達は、好奇の目で見ていた。

「…蘇芳先生、お願いだから、帰りましょう。他人の視線がイタイです」

懇願する雪愛にようやく蘇芳先生は頷いた。

…雪愛を自宅に送り届けた蘇芳先生は、特に何も言わず帰ろうとする。

「…あの!ご馳走様でした」
「…今度はもっと、良い店に連れてく」
「…え」

目を丸くする雪愛をその場に残し、蘇芳先生は去って行った。

…また、食事に行く事になってしまっている。なんの約束もしていないが、蘇芳先生はきっと、また、強引に雪愛を連れ出すのだろう。そう思うと、溜息をつかずにはいられない。


…でも、2人の食事は、意外に楽しかった。と、どこかで思う雪愛だった。
< 30 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop