蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…月曜日。今日から金曜日まで、雪愛は外来勤務だった。

担当科は内科。…よりにもよって、三条先生と一緒だ。

なんだか憂鬱な気持ちで、仕事に取り掛かった。

とは言え、それをあからさまに表に出す事が出来るわけもなく、雪愛は、いつも通りに振る舞った。

内科の診療は、意外に早く終わり、12時半には、休憩に入れた。今日も、お弁当を持って、屋上に向かった雪愛。

ドアを開け、思わずその足を止めた。

…これまた、定位置でタバコを吸う蘇芳先生がいたからだ。

「…お疲れ様です」

無視しようと思ったが、そんな訳にもいかず、雪愛は、当たり障りない言葉を発した。

「…お疲れ…今から休憩か?」
「…はい」

それ以上の会話はないまま、雪愛はベンチでお弁当を食べ始めた。

…。

突然、雪愛の目の前に手が伸びてきて、驚いて上を見上げると、蘇芳先生が、雪愛の卵焼きを取って食べている。

「あ〜!私の卵焼き!」
「…もう少し、甘めがいいな」

…そんな感想聞いてません。という目で、蘇芳先生を見る雪愛。

「…次はいつ、作りに来る?」

その言葉に、雪愛はハッとした。

そろそろ、冷蔵庫の中は、空っぽのはずだ。
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