蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
何の答えも返さない雪愛に。蘇芳先生は続ける。

「今週の予定は?」

空をぼんやりと見上げながら、蘇芳先生が雪愛に問いかける。

…今週は外来で5時過ぎには毎日終わるし、友人との約束も何にもない。

雪愛が答えに困っていると。


「…三条と、デート…とか?」

思い掛けない言葉に、雪愛は動揺する。

「なんで、そうなるんですか?」

蘇芳先生を見つめ、聞く。

「…日曜、見たんだ」
「・・・え」

蘇芳先生が、とても切なげな瞳で、雪愛を見る。…雪愛は、更に動揺する。まさか、三条先生と出ていくところを、蘇芳先生に見られていたなんて思っていなかったから。

「仲良さそうに、出ていく姿を」
「・・・」

「今日だって、凄く、仲良さそうにしてたって、看護師が言ってた」
「・・・」

「それに・・・院内で噂になってるの、お前知ってるか?」
「…噂?」

動揺を隠せないまま、蘇芳先生を見つめ続ける雪愛。

「お前と…三条先生が付き合ってるって」
「そ!・・・・そんな事、あるわけないじゃないですか?」

…確かに、食事には行ったが、日曜日が初めての事。…告白もされたが、…決して、付き合っていない。

「…ダメだな」
「・・・」

蘇芳先生の手が、あの時のように、雪愛の頬に触れた。

…触れられた頬が、一気に熱を帯びていく。

< 35 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop