蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
三条先生は、蘇芳先生を睨むと、ツカツカと、近寄るなり、雪愛を蘇芳先生から引き離した。

「三条先生!」

呆気にとられる雪愛の手を引いて、三条先生はドアに向かって歩き出す。蘇芳先生の言葉なんて聞く耳も持たず。

勢いよく閉められたドアの音に、ようやく雪愛は我に返り、三条先生の手を引っ張った。

「離してください!」
「ダメ、離さない」

「三条先生」
「・・・そろそろ、午後の診療が始まります」

…雪愛の腕時計は、そろそろ二時になろうとしていた。午後の診療開始時刻だ。

「三条先生、私「聞きたくない」
「・・・・」

雪愛の手を握りしめた三条先生は、前を見たまま、ありえない言葉を口にした。

「蘇芳先生は、止めておいた方がいい」
「…どういう意味ですか?」

「…蘇芳先生には、決まった女性がいるからだ」
「・・・?!」

『決まった女性』…それは、結婚が。という意味?

雪愛は、目を見開いた。

「…だから、蘇芳先生は止めた方がいい」
「・・・・」

放心状態の雪愛の手をそっと離した三条先生は、振り返り、雪愛を見据えた。

「俺には、雪愛ちゃんだけだから」

そう言うと、三条先生は、白衣を翻し、診察室に向かって歩き出した。

雪愛は、行き場のない自分の気持ちがどこに向かえばいいのか、途方に暮れた・・・
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