蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「島崎さん、青島さん(患者)の血液採って、検査に回して」
「…」

「島崎さん!」

仕事中だと言うのに、雪愛はうわの空で、三条先生の一喝にやっと我に返った。

「…すみません。今すぐ…青島さん、こちらへどうぞ」

明らかに今までと違う雪愛を見て、三条先生は目を見張った。

…言うべきではなかった。三条先生は心底思った。

…雪愛は蘇芳先生の事が好きだ。

だが、本人はそれに気づいていない。

とは言え、まさかそこまで蘇芳先生への想いが大きいとは思わなかった。

…今なら、蘇芳先生への想いを諦め

自分を見てくれるのではないかと思い、話したのに。

仕事に差し支えるほどだとは思わなかった。

…結局、今日1日、雪愛は仕事に集中できていなかった。

「…三条先生」
「…何?」

電子カルテを見ながら、三条先生が返事をする。

「…今日は、すみませんでした。明日からは、心を入れ替えて、仕事します。本当にすみませんでした」

深々と頭を下げる雪愛に、三条先生は振り返ると雪愛を見上げる。

「島崎さん…雪愛ちゃん」
「…はい」



「…蘇芳先生の事が、好き?」
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