蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…蘇芳先生」

雪愛に呼ばれ、不機嫌な顔で見上げた蘇芳先生。

「…見かけによらず、子供の事、しっかり観察してるんですね」

「…喧嘩売ってんのか?」
「…ま、まさか、違いますよ。凄いなぁって感心しただけで」

「…お前は、観察力がなさ過ぎ…次」

蘇芳先生の言葉に、納得しつつ、でも、ぷくっと頬を膨らませた雪愛だったが、次の患者を促され、慌てて患者を呼んだ。

…蘇芳先生の診察は、とにかく長い。

午前中の診察を終えたのは、午後2時になる頃で。

雪愛は、ため息をつきながら、1人、屋上に向かう。その途中、内科の三条先生が、雪愛を労い、メロンパンをくれた。満面の笑みでお礼を言うと、三条先生も嬉しそうに頷き、その場を去った。本当に得な性格だ。

屋上に着き、自分作のお弁当を静かに食べ始めた。

…。

その時、屋上のドアが静かに開き、よりにもよって、蘇芳先生が出てきた。

雪愛は怪訝な顔で、蘇芳先生を見るが、蘇芳先生は知らん顔で、雪愛の風下に行き、タバコを吸い始めた。

…蘇芳先生なりに、気を使って。

「…蘇芳先生、お昼ご飯食べましたか?」

雪愛もようやくこの時間に昼食なのだ。蘇芳先生だって、まだの筈。

「…一食くらい抜いても問題ない」

蘇芳先生の言葉に、雪愛は腹を立て、自分のお弁当を無理やり蘇芳先生に持たせた。

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