蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
とは言え、院内では蘇芳先生を避けていて、会う事がない。しかも、土日は休み。

…自宅に返しに行ってみようか。

「…返さなくちゃいけないから行くんだもんね」

と、思ったものの、なかなか家に足が向かなくて、土曜の夕方。ようやく、雪愛は、蘇芳先生の自宅の前に来た。

「…いなかったら、どうしよう」

…今日は土曜日だ。蘇芳先生は病院にいるかもしれない。でも、いたら…なんて考えていると。

「…そんなとこに突っ立って、何やってる?」

聞き覚えのある声に、雪愛は驚きつつ視線を向けた。

…明らかに仕事帰りの蘇芳先生が、怪訝な顔で、雪愛を見ながら、歩いてくる。

…雪愛は、ソワソワして…目の前に来た蘇芳先生に、スッと自分の手を差し出した。

蘇芳先生は意味がわからないと言った顔で、雪愛を見る。

「…あの、これ、お返ししようと思って」

雪愛の手のひらにのせられたそれを見て、蘇芳先生はとても不機嫌な顔をした。

「…なんで、返すの?」
「…」

理由を聞かれ、雪愛は応えに困った。
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