蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
「…返さなくていい」
「…ぇ」

驚きの眼差しで蘇芳先生を見上げると、蘇芳先生はとても切なげな瞳で雪愛を見下ろす。

「それは、お前のだから」
「…蘇芳先生、これは返さないとダメだと思うんです」

「…」
「…蘇芳先生には、大事な女性がいるんですよね?」

「…ぇ?」
「私がこれを持ってるなんて、その人に失礼…」

そこまで言うと、蘇芳先生は怒ったような顔で雪愛を見て、口を噤んでしまった雪愛を、強引に部屋の中に連れ込んだ。

「…蘇芳先生!」
「…誰から聞いた?」

「…」
「誰から聞いたのかって聞いてるんだ」

雪愛は、蘇芳先生から視線を逸らしたまま、小さな声で呟いた。

「…三条先生、から」

その答えに、蘇芳先生は、大きな溜息をついた。

「…あの」
「…それは、三条の勘違いだ」

蘇芳先生の言葉に、雪愛は反応に困る。
三条先生の勘違い?え?何が?どういう事?
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