蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…次の日から、金曜日まで、雪愛は仕方なく、蘇芳先生の分のお弁当も一緒に作った。

そして毎日のように、屋上で一緒にそのお弁当を食べた。

…特に、なんの感想もなく静かに弁当を食べる蘇芳先生。…別に、感想が欲しいわけじゃなかったが、静まり返った屋上で、二人きりでお弁当を食べるのが、雪愛にとって苦痛以外の何物でもない。

元々、お喋りが好きな雪愛。それに対し、お喋りは得意でない蘇芳先生。早く金曜日が来れば良いのにと、雪愛は願った。

…そしてようやく、金曜日が来た。

来週は、病棟勤務になっている。夜勤もあるし、これで蘇芳先生からも解放されると、雪愛は内心安堵感で一杯だった。

「…ご馳走様」
「…お粗末様でした。…来週は、病棟勤務になってますから、お弁当は作れませんよ」

お弁当箱をしまいながら、蘇芳先生に呟いた雪愛。

「…」

雪愛の言葉に、何の反応も示さない蘇芳先生に、困惑の目を向けた。

「…これ」
「…え??」

蘇芳先生は、雪愛の手に、何かを握らせた。…雪愛は、その手に乗せられた物を凝視する。


…鍵だった。

まさかとは思うが、雪愛は、蘇芳先生に問いかける。

「…これ、まさかとは思いますが、鍵、ですよね」
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