蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
蘇芳先生の車に駆け寄ると、助手席のドアがスッと開いた。

「…乗れ」
「…あの、こんな時間に…迎えにきてくれたんですか?」

「…いいから早く」

雪愛の問いに答えずそう言った蘇芳先生の顔は、自分の気持ちを悟られて目を泳がせている。

「…ありがとうございます。蘇芳先生も疲れてるのに」

素直にお礼を言い、助手席に乗り込んだ雪愛。

…そんな仲睦まじい2人を、誰かが見ている事など、今の2人にはわからなかった。

「…なんか、食べたい物ありますか?」

今からだと夜食になってしまうが、蘇芳先生の為に何か作ろうと考えた雪愛が問いかけた。

「…いや、雪愛も疲れてる。どこかに食べに行こう」

…とは言ったものの、深夜に開いてるのは、ファミレスくらいだ。

「…雪愛とは、なかなか良い店に行けないな」

と、ボヤく蘇芳先生に、雪愛は笑った。

「…お互い忙しいから、仕方ないですよ。時間を合わせるのは、至難の技ですね」

なんて、言う雪愛に、蘇芳先生は困ったように笑った。
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