蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
…逃げても、何の解決にもならないのに。そんなこと分かっているのに、会うことが何より怖かった。

…走り疲れた雪愛は、アパートから少し離れた公園のベンチに腰掛けた。

…自分が、情けないやら、薫子先生にあんな顔で見られて悔しいやら、蘇芳先生に文句の一つも言う勇気のなさに溜息をつき、最後には、すすり泣き始めた雪愛。

「こんなに蘇芳先生が好きなのに、なんで上手くいかないのかなぁ…」

泣きながら、震えた声で呟いた。

…。

「…やっと、…見つけ、た」
「…⁈」

すごく息を切らせた蘇芳先生が、怒った顔で、雪愛を見つめてそう言った。

雪愛は辺りをキョロキョロして、出口を見つけると、また逃げようとする。

「…これがないのに、どうやって家に入るつもりだよ?」

その言葉に、恐る恐る振り返る雪愛。蘇芳先生の手には、雪愛のアパートの鍵が握られていた。

…観念したように、雪愛は逃げる事を止めた。

「…鍵を間違えて置いて行くとか、雪愛らしい」
「…ぅ」

俯いてしまう雪愛の目の前までやってきた蘇芳先生が、雪愛手を取ると、その手に鍵を置いた。
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